空堀(からぼり)とは水を使わず敵を止めるための空間

日本の旅侍編集部
[執筆者] (メディア)
空堀とは
  • 空堀とは、水を張らずに掘られた城の堀のこと
  • 水ではなく、深さ・落差・急斜面によって敵の進軍を止める防御施設である
  • 敵が空堀を越えるには、いったん堀底へ降り、反対側の斜面を登る必要がある
  • 堀底に入った敵は、動きが遅くなり、隊列が乱れ、上や横から攻撃されやすくなる
  • 山城では、尾根を断ち切る堀切や、斜面の横移動を防ぐ竪堀としても用いられた
  • 空堀は、敵を通さないだけでなく、橋・土橋・虎口など守備側が攻撃しやすい場所へ誘導する役割も持つ
  • 滝山城・杉山城・小机城などでは、空堀が曲輪や土塁、虎口と組み合わさり、敵の動きを制御する防御線として機能している

空堀とは、水を張らずに掘られた堀であり、深さ・落差・急斜面によって敵の進軍を止める防御施設です。敵は空堀を越えるために、いったん堀底へ降り、反対側の斜面を登らなければならず、その間に隊列は乱れ、動きも遅くなります。堀底に入った敵は上や横から狙われやすく、防御側に有利な攻撃空間となりました。空堀は、水のない堀ではなく、地形を削って敵の動きを制限し、不利な場所へ誘導するための防御装置です。

空堀は、水のない堀では終わらない

堀というと、水をたたえた水堀を思い浮かべる人は多い。

しかし、城には水のない堀もある。
それが空堀である。

空堀とは、水を張らない堀のこと。
ただし、単に水がないだけの溝ではない。

空堀は、敵の進路を断ち、足を止め、動きを制限するために掘られた防御施設である。

水がないから弱いわけではない。
むしろ、水がないからこそ、深く掘り、急な斜面を作り、堀底へ落ちた敵を身動きしにくい状態にできる。

敵は堀を越えようとする。
しかし、堀底へ降りれば、今度は反対側の斜面を登らなければならない。
武具を身につけたまま、急斜面を登るのは簡単ではない。
隊列は崩れ、速度は落ち、上から狙われる。

空堀は、敵を止めるだけではない。
敵を不利な場所へ落とし込み、防御側が攻撃しやすい状態を作る。

つまり空堀は、水のない堀ではなく、地形そのものを使って作られた防御のためのキルゾーンなのである。

空堀の基本、水を使わず、落差で敵を止める

空堀とは、水を張らない堀のことである。

  • 城の周囲を囲む堀
  • 曲輪と曲輪を分ける堀
  • 尾根を断ち切る堀
  • 斜面に沿って掘られた堀
  • 山城の防御線を作る堀

空堀は、さまざまな場所に設けられた。

水堀が水によって敵の進軍を止めるのに対し、空堀は落差と斜面によって敵を止める。

敵が空堀を越えるには、まず堀の底へ降りる必要がある。
そして、反対側の斜面を登らなければならない。

この「降りて、登る」という動作が、攻撃側にとって大きな負担になる。

  • 平地を走るようには進めない
  • 隊列を保てない
  • 盾を構えにくい
  • 武器を使いにくい
  • 足元に気を取られる

その間、守備側は上から敵を見ることができる。

空堀は、敵に余計な動作を強いる施設である。
まっすぐ進ませず、いったん下へ落とし、そこから登らせる。

この高低差こそが、空堀の防御力である。

キルゾーン〜堀底に落ちた敵は、上から狙われる

空堀の怖さは、堀を越えにくいことだけではない。

本当に重要なのは、堀底に入った敵が非常に狙われやすくなることである。

敵が堀底へ降りる。
そこで動きが遅くなる。
前後の兵が詰まる。
斜面を登ろうとして姿勢が崩れる。
上を向かなければならない。
盾や武器を十分に使えない。

この瞬間、守備側は上から攻撃できる。

  • 矢を射る
  • 鉄砲で狙う
  • 石を落とす
  • 槍で突く
  • 横から攻撃を加える

堀底は、攻撃側にとって逃げにくく、守備側にとって狙いやすい場所になる。

つまり空堀は、敵をただ足止めするだけではない。
敵を不利な高さ、不利な姿勢、不利な密集状態へ追い込む。

その場所に攻撃を集中することで、防御側に有利な戦場を作る。

これが、空堀のキルゾーンとしての働きである。

水堀は、水と泥で敵の速度を奪う。
空堀は、落差と斜面で敵の姿勢を崩す。

どちらも、敵を自由に動かせない状態にする点では同じである。

進路遮断〜尾根を断ち、敵の直進を止める

空堀は、特に山城で大きな効果を発揮した。

山城では、敵は尾根や斜面を通って城へ近づく。
山の中では、広い平地のように自由に進めない。
進める場所は、尾根筋や比較的なだらかな斜面に限られる。

そこで、城側はその進路を断ち切る。

尾根を横断するように掘られた堀を、堀切という。
堀切は、敵が尾根伝いにまっすぐ進むことを防ぐための空堀である。

尾根の上を進んできた敵は、堀切の前で止まる。
そのまま進むには、堀底へ降り、反対側へ登らなければならない。

この時点で、敵の勢いは失われる。

さらに、堀切の先に曲輪や土塁、虎口があれば、敵はそこでもう一度足を止められる。
空堀は、城へ向かう道を単純な直線にさせない。

  • 進ませる
  • 止める
  • 降ろす
  • 登らせる
  • 曲げる
  • 狙う

山城の空堀は、自然の尾根に人工の切れ目を入れることで、敵の進路を分断する装置だった。

横移動を止める〜斜面を自由に動かせないようにする

空堀には、敵の直進を止めるだけでなく、横移動を止める役割もある。

斜面を縦に掘られた堀を、竪堀(たてぼり)という。
竪堀は、山の斜面を横へ移動する敵を防ぐために設けられる。

山城を攻める敵は、正面からだけ来るとは限らない。
斜面を回り込み、守りの弱い場所を探すことがある。

しかし、斜面に竪堀があると、横方向に移動しにくくなる。

斜面を横切ろうとしても、堀にぶつかる。
堀を越えようとすれば、いったん下へ降り、また登る必要がある。
その間に動きは止まり、上から見つけられやすくなる。

竪堀は、敵の回り込みを防ぐための線である。

空堀は、ただ城の前に掘られるだけではない。
尾根を断つ。
斜面を切る。
曲輪の周囲を囲む。
虎口へ向かう導線を制限する。

地形に合わせて掘り方を変えることで、敵の動きを細かく制御していた。

導線〜空堀は、敵を通したい場所へ誘導する

空堀は、敵を完全に城へ近づけないためだけの施設ではない。

重要なのは、敵の通る場所を限定することにある。

堀がある場所は通れない。
堀が深い場所は越えにくい。
斜面が急な場所は登れない。

すると敵は、通れる場所を探す。

  • 土橋
  • 堀が浅い場所
  • 虎口へ向かう細い道
  • 曲輪の入口

敵は、自然と限られた導線へ集まる。

そこに城側の狙いがある。

通れない場所を作ることで、通らせたい場所へ誘導する。
そして、その場所に門や土塁、櫓、狭間、横矢を重ねる。

空堀は、敵を止める壁であると同時に、敵を誘導するための地形でもある。

堀を越えられない敵は、入口を探す。
入口へ向かった敵は、そこでさらに攻撃を受ける。

城の防御は、敵を完全に拒むだけではない。
敵を不利な場所へ導くことでも成立している。

空堀は、その導線設計を支える重要な施設なのである。

横矢〜堀に入った敵を、正面だけでなく横から狙う

空堀と組み合わせて重要になるのが、横矢である。

横矢とは、敵の正面ではなく側面から攻撃する仕組みのこと。
城の防御では、敵を正面から受け止めるだけでなく、横から狙うことが重視された。

空堀に入った敵は、前へ進むことに集中する。
堀底を歩き、斜面を登り、出口を探す。

そのとき、横から攻撃されると非常に弱い。

盾を前に構えていても、横から狙われる。
隊列の側面が露出する。
狭い堀底では向きを変えにくい。
逃げようとしても、斜面に囲まれている。

空堀は、横矢と組み合わさることでさらに強くなる。

ただ深い堀を掘るだけではなく、堀の形を曲げたり、折れを作ったり、曲輪の張り出しから堀底を見下ろせるようにしたりする。

そうすることで、堀の中の敵を複数方向から攻撃できる。

空堀は、敵を落とすだけの穴ではない。
敵を攻撃しやすい位置へ置くための設計である。

障子堀〜堀底をさらに区切り、敵の動きを封じる

空堀の中には、堀底をさらに複雑にしたものもある。

その一つが障子堀である。

障子堀とは、堀の底に畝を残し、区画を区切るように掘った堀である。
上から見ると、障子の桟のように見えることから、この名で呼ばれる。

障子堀では、敵は堀底を自由に移動しにくい。
畝によって動ける場所が制限される。
足場が不安定になる。
まっすぐ進めない。
集団で動きにくい。

水がなくても、堀底そのものが敵の動きを邪魔する。

さらに、障子堀に水が入る場合は、水深が分かりにくくなり、泥や畝によって足を取られやすくなる。
敵にとっては、どこを進めばよいのか分かりにくい。

山中城の障子堀は、その構造を視覚的に理解しやすい。
堀底がただ平らに掘られているのではなく、敵の移動を細かく制限する形になっていることが分かる。

空堀は、単純な溝ではない。
堀底の形まで含めて、敵をどう止めるかが設計されていたのである。

城ごとに異なる空堀の役割、滝山城・杉山城・小机城に見る空堀

空堀は、城ごとに役割の見え方が異なる。

滝山城では、尾根や曲輪の間に空堀が設けられ、城内の進路を複雑にしている。
攻め手は、堀を越えながら曲輪へ近づく必要があり、そのたびに速度を落とされる。
空堀が曲輪や虎口と組み合わさることで、敵を段階的に止める構造が見えてくる。

杉山城では、空堀や土塁、虎口の配置によって、敵の進む方向を細かく制御している。
堀が直線的に敵を止めるだけでなく、曲がりや折れを伴いながら、攻め手を不利な方向へ誘導する。
空堀が城全体の導線設計と深く関わっていることが分かる。

小机城では、現在も大きな空堀が残り、堀底へ落とされた敵がどのように動きを制限されたかを想像しやすい。水がなくても、深さや斜面、堀底の幅によって敵の進軍を止めることができる。空堀が「水のない堀」ではなく、地形によって敵を止める防御施設であることを理解しやすい城である。

これらの城を見ると、空堀が単なる水のない堀ではないことが分かる。

深さで止める。
斜面で登らせる。
堀底で動きを封じる。
曲輪や虎口へ敵を誘導する。
横から攻撃できる場所を作る。

空堀は、城の地形と防御の考え方を最も分かりやすく示す施設の一つである。

水堀との違い、水で止めるか、地形で止めるか

水堀と空堀は、どちらも敵の進軍を止めるための堀である。

ただし、その方法は異なる。

水堀は、水によって敵を止める。
泳ぎにくい幅、足元の泥、水深の分かりにくさによって、敵の速度を奪う。

空堀は、地形によって敵を止める。
深さ、斜面、落差、堀底の狭さによって、敵の動きを制限する。

水堀では、敵は水に入ることで動きにくくなる。
空堀では、敵は堀底へ落ち、斜面を登ることで動きにくくなる。

どちらも、敵を不利な状態に変える施設である。

水堀は、平地の城や水系を利用できる場所で効果を発揮しやすい。
空堀は、山城や台地上の城など、高低差を利用できる場所で効果を発揮しやすい。

もちろん、城によっては水堀と空堀を組み合わせる場合もある。

重要なのは、水があるかないかだけではない。
その堀が、敵をどこで止め、どこへ誘導し、どこから攻撃するように作られているかである。

水堀も空堀も、城の防御を組み立てるための装置なのである。

見るべきポイント、空堀では、堀底と上からの視線を見る

空堀を見るときは、ただ「深い」「大きい」と見るだけではもったいない。

大切なのは、敵がそこに入ったらどうなるかを想像することである。

堀底は広いのか、狭いのか。
斜面は登りやすいのか、急なのか。
反対側へすぐ登れるのか。
堀の先に虎口があるのか。
横から見下ろせる曲輪があるのか。
土塁や櫓が堀を見下ろしているのか。
堀がまっすぐなのか、曲がっているのか。

これらを見ると、空堀の役割が見えてくる。

堀底が狭ければ、敵は密集しやすい。
斜面が急なら、登るときに動きが止まる。
横から見下ろせる場所があれば、そこから攻撃できる。
堀が曲がっていれば、敵の進路はさらに制限される。

空堀は、城の外側に掘られた大きな溝ではない。

敵をどこで止めるか。
どの方向へ進ませるか。
どこから狙うか。

それを読むための地形である。

空堀は、敵を落として止める防御装置である

空堀とは、水を張らない堀である。

しかし、その本質は「水がないこと」ではない。
水を使わず、地形そのものによって敵を止めることにある。

堀底へ降ろす。
反対側の斜面を登らせる。
隊列を乱す。
動きを遅くする。
横から狙う。
虎口や曲輪へ誘導する。

空堀は、敵の移動を自由にさせないための防御施設である。

特に山城や台地上の城では、尾根や斜面を切ることで、敵の進路を分断した。
堀切は尾根を断ち、竪堀は斜面の横移動を防ぎ、障子堀は堀底の動きまで封じた。

空堀は、ただの溝ではない。

敵を不利な場所へ落とし込み、上から、横から攻撃するための空間である。
水がないからこそ、落差・斜面・堀底の形が防御力になる。

空堀とは、地形を削って作られた、城のキルゾーンなのである。

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記事カテゴリ
城郭のロジック
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