馬出(うまだし)とは城を守るために、外へ出る前線基地
- [執筆者] 日本の旅侍編集部(メディア)
- 馬出とは
- 馬出とは、城の虎口の外側に設けられた小さな曲輪のこと
- 虎口を直接攻撃されにくくし、敵の進路を曲げて進軍速度を落とす役割を持つ
- 守備側が城内から安全に出撃し、敵の側面を攻撃して戻るための前線拠点として機能する
- 代表的な形には、武田氏の城郭に多く見られる丸馬出と、北条氏の城郭などで見られる角馬出がある
- 馬出は、城に籠もるだけでなく、敵の動線を能動的に破壊するための防御構造である
馬出とは、城の虎口の外側に設けられた小さな曲輪で、敵を城門へ直進させないための防御施設です。虎口を守るだけでなく、守備側が城外へ出撃し、敵の側面を攻撃して再び城内へ戻るための前線拠点としても機能しました。丸馬出や角馬出など形状の違いはありますが、共通する目的は、敵の進軍速度を落とし、動線を乱し、城側が主導権を握ることにあります。馬出は、守るために外へ出る、城郭防御の能動的な仕組みです。
城は、ただ籠もるための施設ではない
城の防御というと、石垣や堀の内側に籠もり、敵を待ち受ける姿を想像しやすい。
しかし、実際の城郭防御はそれだけではない。
敵を近づけない。
近づいた敵を分断する。
そして必要なタイミングで、城側から打って出る。
そのために設けられた仕組みが「馬出」である。
馬出とは、虎口の外側に設けられた小さな曲輪である。
単なる門前広場ではない。
城内から安全に兵を出し、敵の側面を突き、再び城内へ戻るための前線拠点である。
虎口と桝形が、敵を止めるための入口設計だとすれば、
馬出は、止まった敵に対して城側が能動的に反撃するための装置である。
城は、守るだけでは勝てない。
攻め込んできた敵の動線を壊す必要がある。
馬出とは、専守防衛ではなく、迎撃するための防御構造なのである。
馬出の基本、虎口の外側に置かれた独立区画


馬出は、城の出入口である虎口の前面に築かれる小規模な曲輪である。
敵から見ると、虎口の前にもう一つ障害物があるように見える。
しかし、馬出の役割は単なる防壁ではない。
馬出があることで、敵は虎口へまっすぐ近づけなくなる。
一度、馬出を処理しなければならない。
その間に、攻撃側の隊列は乱れ、進軍速度は落ちる。
一方、守備側は馬出を拠点に、敵の側面へ出ることができる。
つまり馬出は、以下複数の機能を持っている。
- 虎口を直接攻撃されにくくする
- 敵の進路を曲げる
- 守備側の出撃拠点になる
- 敵の側面を攻撃する
重要なのは、馬出が城の外側にあることだ。
城の内側だけで守るのではなく、入口の外へ防御線を押し出す。
その結果、敵は虎口に到達する前に、すでに城側の制御下に置かれる。
馬出は、虎口を守るための外部装置であり、城側が主導権を握るための前線基地なのである。
迎撃〜敵の側面を突き、また戻る


馬出の本質は、反撃にある。
城に攻め寄せる敵は、虎口を突破しようとする。
そのため、注意は門や虎口に向かいやすい。
そこで馬出が機能する。
守備側は、馬出を経由して外へ出る。
そして、虎口へ集中する敵の側面を突く。
攻撃後は、再び馬出を通じて城内へ戻る。
この動きにより、守備側は城外へ出ながらも、完全に孤立しない。
馬出がなければ、城外へ出た兵は危険にさらされる。
敵に包囲され、戻る道を失う可能性がある。
しかし馬出があれば、出撃と退却の導線が確保される。
つまり馬出は、ただの攻撃拠点ではない。
安全に出て、安全に戻るための構造である。
防御側にとって最も危険なのは、城の外へ出た瞬間である。
馬出は、その危険な瞬間を構造によって管理する。
守るために、外へ出る。
外へ出るために、戻る道を確保する。
この往復の動きを成立させることが、馬出のロジックである。
動線破壊〜敵を虎口へ直進させない


馬出は、守備側の出撃拠点であると同時に、敵の導線を壊す装置でもある。
虎口の前に馬出があると、敵は門へ一直線に進めない。
馬出を迂回するか、馬出を突破するか。
いずれにしても、進路は曲げられる。
直進できないということは、速度が落ちるということである。
速度が落ちれば、隊列は詰まる。
隊列が詰まれば、守備側の攻撃を受けやすくなる。
さらに、馬出の周囲には堀や土塁が組み合わされることが多い。
そのため、敵は自由に展開できない。
広い場所で大軍を広げることができず、狭い動線に誘導される。
これは、虎口と同じ考え方である。
ただし、虎口よりも一段外側でそれを行う点が異なる。
馬出は、城の入口へ敵を近づける前に、すでに敵の動きを制限している。
つまり馬出とは、城門の前に置かれたアクセス制限である。
城側から見れば、敵がどこを通るかを予測しやすくなる。
攻撃側から見れば、自由に攻めているようで、実際には城側が用意した導線を歩かされている。
馬出は、敵の進軍ルートを破壊し、
城側に有利な戦場へ変換するための構造なのである。
形状〜丸馬出と角馬出の違い
馬出には、大きく分けて丸馬出と角馬出がある。
丸馬出は、半円形または円弧状の形をした馬出である。
武田氏の城郭に多く見られる形式として知られ、丸みを帯びた形状によって敵の動きを受け流しやすい。
丸い形は、正面からの圧力を一点で受けにくい。
敵を左右へ分散させ、虎口への直進を防ぐ。
また、曲線状の土塁や堀によって、守備側は馬出の周辺へ射線を向けやすくなる。
一方、角馬出は、方形または角張った形をした馬出である。
北条氏の城郭などで見られる形式として知られ、区画が明確で、虎口前の防御空間を整理しやすい。
角馬出は、直線的な土塁や堀によって、敵の進路をはっきり制御できる。
守備側の配置もしやすく、門前の防御をシステム化しやすい。
丸馬出は、敵を受け流し、動きを乱す。
角馬出は、敵の進路を区切り、管理する。
どちらが優れているという話ではない。
地形、築城勢力の思想、城の規模、虎口の位置によって使い分けられる。
重要なのは、馬出が単なる形の違いではなく、敵の動きをどう制御するかという設計思想の違いとして現れる点である。
見るべきポイント、虎口の外側に「もう一つの区画」があるかを見る
城跡で馬出を見るときは、門そのものではなく、その外側に注目する。
虎口の前に、独立した小さな区画がないか。
その周囲に堀や土塁が回っていないか。
門へ直進できないように、進路が曲げられていないか。
城内から外へ出て、再び戻れる導線があるか。
これらが見えるなら、そこには馬出のロジックがある。
馬出は、現在では地形として分かりにくいことも多い。
建物が失われ、堀が埋まり、土塁だけが残っている場合もある。
そのため、現地では案内図や縄張図と一緒に見ると理解しやすい。
写真を撮る場合も、単なる土塁や広場では伝わりにくい。
虎口との位置関係を入れることが重要である。
馬出は、単体で存在するものではない。
虎口を守り、敵の導線を崩し、守備側の出撃を支えるために置かれている。
つまり見るべきなのは、形ではなく配置である。
馬出は、城のアクティブ・ディフェンスである
馬出とは、虎口の外側に設けられた小さな曲輪である。
しかし、その役割は門を守るだけではない。
敵を虎口へ直進させない。
進軍速度を落とす。
隊列を乱す。
城側の兵を安全に出撃させる。
敵の側面を攻撃し、再び城内へ戻る。
馬出は、城側が受け身にならず、能動的に敵の動きを破壊するための構造である。
虎口と桝形が、敵を止める装置だとすれば、馬出は、止めた敵に対して城側が動くための装置である。
城は、ただ籠もるための施設ではない。
必要な場所で、必要なタイミングに、外へ出るための仕組みも持っている。
馬出とは、守るために攻める構造である。
城郭防御における、最も能動的なロジックの一つなのである。
- 参考文献・出典
- 城びと「超入門! お城セミナー 第40回【構造】お城の防御設備・馬出はどうやってお城を守るの?」
- 甲賀市「城郭用語集」
- 刀剣ワールド 城「馬出・狭間」
- 中井均・加藤理文『城郭探検倶楽部 お城の新しい見方・歩き方ガイド』新人物往来社、2003年
- 三浦正幸『城のつくり方図典 改訂新版』小学館、2016年
- 西股総生『図説 戦う日本の城最新講座』学研プラス、2018年
- 執筆者 日本の旅侍編集部(メディア) 日本の旅侍は知的旅〜オトナの城旅を城写真と共に伝える情報メディアです。日本全国のお城を都道府県別にご紹介。国宝天守・現存天守・復元天守・櫓・石垣・お堀などお城の様々な要素を写真共に伝えます。お城の歴史コラムもあり。 公式HP・SNSはこちら